債務免除と会社再建 その3

債務免除と会社再建 その3

 総務部長になって、いの一番にしなければならない実務は資金繰りでした。当社の総務部は、総務課と経理課で構成されていましたが、この希望退職者募集でベテランの総務部長までが退職したという事は、資金繰りが相当にきつくなった事を暗示させました。予期せぬ退職の為に、社長が経理を任せられる人物を外部に求めたものの、適正者が確保できなかったのが、私が総務部長に任命された理由でした。

 さて、最初の仕事が資金繰りですが、その時点の試算表や預貯金残高の状況を見るにつれて、即刻日繰り表で管理しなければならない段階にあることを自覚させられました。その理由は、預金が銀行に有るにはありますが、拘束されていて使えない事がわかったのです。実際、当時は、金融機関より融資を受けるとその何割かを定期にして担保として差し入れする慣習があったのです。(20年以上前の事です)そして、その拘束預金は金融機関への返済が滞った場合、一方的に預金と借入金を相殺できると言うものでした。ですから、ひも付きの預金を外した純粋に使える現金を割り出すと、情けなくなるほどの少額しかありませんでした。しかし、当社とその取引先の多くは手形決済が普通でしたので、一度でも不渡りを出すわけには行きません。私の覚悟は、私のミスによる不渡りは絶対に出さないことでした。

 日繰り表は手探りでした。手形の落としを含め支払いについてはかなりの精度で作る事が出来ましたが、肝腎の入金については不明な事ばかりでした。当時は、売掛金の回収は全て営業社員の仕事で、販売先が全額振り込みとなる場合はせいぜい数十万円規模のものでした。ほとんどが手形(回しも多く、裏書が足らず紙を付け足したものもあるほど)か小切手でした。どちらも厄介なのは、貰って現金化するのに数日かかる事でした。自社の振出手形の落としは15日と月末日、相手から貰う手形は、月末日の営業社員の回収に頼っていたので、一時的に資金不足に陥るのは避けられないのです。

一つエピソードを書きます。

東北のお客様の数千万円の売掛金の回収で、契約書には支払い方法は現金とあり月末日営業社員が訪問し受取ることになっていました。勿論この額を現金で持ってくることは無いので、振込みのお礼を言うための訪問と思っていました。実はこれが無いと不渡りの可能性が大きくなるのでした。10時過ぎ、入金の確認をしたところ振り込まれていません。慌てて担当に電話を入れました。

私「どうしたの、待ってるけど」

営業「もう、貰って帰る途中です」

私「振り込みじゃないのか」

営業「小切手貰ったので今晩には会社に持って行けます」

完全に小切手を現金と思い込んでいる営業担当でした。今日は月末日、銀行システムが手形を落としているので現金が有るところまでしか進んでいません。どうしよう!で

私「直ぐお客様の所に戻って、あなたの貰った小切手の横線を届出印で消して貰って、そのまま振出し銀行に持込み現金化して、会社まで振り込んでくれ。このままでは不渡りになる」

実際は、もう少し仕組みについて話して、彼が賢い社員であった事もあり、お客様との関係も良かったので、それから一時間位で客先に戻り、指示通り横線を消していただき、銀行に着いたのが午後1時、救いなのはその銀行が都銀であり、取引銀行であったことで数千万円の入金がほどなく確認され、残りの手形を落とすことができました。

貧すれば鈍するって、良いときは誰も気にしない事が、これも私の貴重な経験となりました。

つづく

債務免除と会社再建について その2

債務免除と会社再建について その2

 業界規模が急激に縮小した理由については触れませんが、結果として対応を迫られることになった分けです。当時の当社は優良会社で損益分岐点は売上高の80%位でありました。ところが、売上高100億円が翌年60億円に落ち込んだので、分岐点から更に20億円マイナスした分けですから、限界利益率(45%位)からみて9億円の赤字という事になります。実際は期中で希望退職を行った為に人件費が減少した事と、退職金の増額分が発生したことを相殺して計画より少ない赤字額(決算上の表示)となりました。しかし事業の維持に必要な手持現金は赤字額以上の減少になり、そのころ、当社は最大期日125日の手形を仕入れ先に振出していたこと、また売上高の半分以上が手形回収であったので、この事が、その後の運転資金の確保にボディーブローのように効いてくることとなります。

細かい話になりますが、希望退職の実施計画が固まり、ハローワークに相談に行ったところ、40人以上の退職が有るなら届を出すよう言われました。失業保険や求人の申請に早く対応するための処置だと説明を受けましたが、やってみるまで人数は分からないので適当に書いて出した様に記憶しています。

希望退職について、計画の策定は5月頃に開始して6か月後の11月に実施したのですが、最後まで退職希望者は予想がつきませんでした。希望者が沢山出るように退職金を上乗せしもしました。その頃には毎月月次損が出て、現金残高の減少が気になっていました。私の立場は企画課長なので、経理の心配より希望退職者が予定の人数まで(超えても困る)出てくれる事だけ考え、社内外の手続きの準備に追われる日々が続きました。

 社内の発表は突然という事になりますが、取締役には夫々役割をお願いするので事前に調整しました。また、社員による個人攻撃がなされることを恐れ、コンサルタント会社を入れて善後策を頻繁に打合せしました。そしていよいよ11月発表をすると、景気が悪くなっていたことを肌で感じていた社員は、ついに来たと受け止めた様でした。更に会社が退職金の分割払いを発表した事から、泥船から逃げ出すように、役職の高い人、就業年数の多い人から名乗りを上げて、結局130人を残して退職が完了しました。この結果、部長、次長はゼロになり、課長も2人残して会社を去りました。会社組織を維持するために、残った技術課長を技術部長に、企画課長を総務部長に昇格させ、困難の状況をしのぐことになります。

つづく

債務免除と会社再建について その1

 私が37歳で転職し次にお世話になった会社で平成8年から数年かけて経験した債務免除を伴う会社再建について書きたいと思います。この件についてはお世話になった金融機関4行様と再建の支援を頂いた大手上場企業(A社)様の名前は伏せて登場します。その他、関係者が分かる固有名称は避けて表現しますので、ご容赦ください。

今から20年以上前になりますが、勤めていた会社の業績が急激に悪化し、大規模の希望退職を含む人員整理を1年間で2度行いましたが、経費の削減が売上げの減少に追いつかず倒産寸前に追い込まれました。

書くとこんな風ですが、実際は年間売上100億円以上あった当会社が、1年後決算で60億円、その翌決算で40億円まで落ち込みました。(急激なパイの縮小は、業界全体の縮小から来たもので、本業界に属する企業は何処も例外なくその影響を受けました。当時不況知らずの業界と言われマスコミでもてはやされていましたがあっという間に業界規模が3分の2まで縮小してしまいました。当然関係企業は軒並み損益分岐点を割り込み大混乱に陥ってしまいました)

当社がそれに伴う対策として、誰もが考える人員整理ですが、計画は立場の弱いパートさん100名余りにまずお願いし、更に社員で希望退職を募って330人ほどの社員を130人まで減らすものでした。私は、経営企画課長の立場であり、人員整理の規模については冷静に計算し残せる人数を割り出していましたが、それは100人であり、初回の人員整理では達成できませんでした。その為、半年後に社員全員と面談して、30人余りに追加退職をお願いする事で当初の計画の人数を達成しましたが、その間に売上は予想以上に落ち込み、結果黒字化はなりませんでした。

つづく

販売イベントは儲かるのか その3

損益分岐点売上高のお話です

本文は事例研究に掲載したものをコラムに移しました

「利益の出始める直前の売上げ」と前回書きましたが、正確には売上げから仕入れや人件費・経費(減価償却費を含む)を全て引き算し、丁度利益が0円になった時の売上げを損益分岐点売上高といいます。この売上げを超えさえすれば利益がゴロゴロと出てくることになります。公式で表現すると

損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 限界利益率  となります。

限界利益については本文の上の方で既に書いてありますが

限界利益=売上高-変動費(小売店では商品仕入れ額)  と表示し

限界利益率となると売り上げに対しての率(%)の事なので

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 ×100(%と表示する為)

となります。少し複雑になりましたが、もう少しですから容赦ください。

事例となったスーパーさんの年間売上が12億円、利益が6千万円(5%)出ていたと仮定すると、このスーパーさんの損益分岐点売上高は以下の計算によって分かります。

スーパーさんの年間売上高 12億円

仕入高    6億円(100円の売上で50円が仕入れなので)

固定費(人件費・経費) 5億4千万円(利益が6千万円出ていたので)

利益     6千万円(これは営業利益としましょう)

すると

限界利益 = 12億円 - 6億円(仕入れ総額) = 6億円

   限界利益率 = 6億円 ÷ 12億円(売上高)× 100 = 50%

その結果を損益分岐点売上の公式に入れると

損益分岐点売上 = 5億4千万円 ÷ 50%(0.5のこと)

             = 10億8千万円となります

このスーパーさんは、年間売上が10億8千万円のとき利益0(損がなくなった)となり、そこから1億2千万円売上が増加したことで6千万円の利益(増加売上げの50%)を得たことになります。12億円に対して6千万円は5%ですが、増加売上げに対して50%の利益率とは信じられない位大きい数字となりました。

結論:限界利益率の大きい会社は損益分岐点売上を超えてからの売上に対する利益の出方も大きいが、その反対に損益分岐点まで売上が上がらない場合の損金も大きくなります。

さて、限界利益率は高いほうが良いのか低いほうが良いのか、ご興味のある方はまず自社の決算書から数字を拾って、実際に計算をしてみてください。

販売イベントは儲かるのか その2

限界利益が分かれば先の利益が見えてくる

本文は事例研究に掲載したものをコラムに移動したものです

例えば、売上が1億円で経常利益が1,000万円(利益率10%)の会社が有りました。売上が1,000万円増えたら、利益も100万円増えるのでしょうか?

一般的に言えば、このケースは100万円以上の利益増になります。それどころか、500万円増えるかもしれません。それこそが、限界利益のなせる業なのです。

この会社①図の利益構造であると考えてください。売上の半分は仕入れですから、どんなに売上があっても半分は仕入れ先に支払いをします。このように売上に比例して発生する費用を変動費と言います。1,000万円の売上の内、仕入費500万円は払うことが確定しているので、残りは500万円です。

売上1,000万円 - 仕入れ費500万円 = 500万円 (限界利益)

と公式にある通りで、この500万円の中から会社は人件費や経費を払って残りが本当の利益となるはずです。ところが、現実的に会社は売上1億円あり経常利益が1,000万円出ているということは、人件費も経費ももう払ってしまっているという事です。そこで、新たに発生する費用は無いので

◇◇ 利益が500万円増えた となります

利益の出始める直前の売上のことを損益分岐点売上高と言います。この額をきちんと把握しておけば、会社の売り上げ目標を設定する為に大いに参考になります。損益分岐点売上高については次の機会にお話します。興味のある方は、ネットで検索してみてください。

販売イベントは儲かるのか その1

販売イベントは儲かるのか?利益は絶対額で見るもの

本文は過去に事例研究ページに掲載したものを連載化するためにコラムに移しました。

このHPの持つ営業見積りのタイトルから外れてしまいますが、事例研究の始めとして「販売イベントは儲かるのか?」について、仕入れ販売をしている小売店をモデルに考えてみたいと思います。

実は私の住んでいる地区にスーパーが有りまして、金曜日はヨーグルトの日と称して一流ブランドの商品が110円(以降全て消費税前)になります。多くのファンがこれ目当てに来店します。ですが、もっと面白いのが、毎週木曜日は10%割引の日と謳い、支払い額から10%をレジで引いてくれます。毎週イベントなので安心感からか大混みするほどではありませんが通常より混んでいます。実は私も時々買い物に行くので、分かるのです。

そこで、私は考えました。通常の会社では10%の純利益を確保するのは大変な事ですが、レジで売上(お客様から見れば支払い)を直接10%を引いて(すなわち純利益から引いて)利益は出るのでしょうか?こんな疑問が浮かんできます。もしかするとこの日の為に数日間買い控えをするから、木曜日前後は店の売り上げがかなり減る!などとも想像してしまいます。でも、お店は続けているのですから、きっと利益は出ているのでしょう。

この仮説を数字を使って検証してみしょう。小売店の生鮮品や商品の仕入れ率は私には分かりませんから、仮に販売価格100円の商品で50%(50円)が仕入れに掛かるものとします。

100円の商品で50円の仕入額とすると残り50円が利益になります。そこで10%値引きは10円の値引きなので、①図で利益はそのまま10円減って40円になります。小売店はこの利益から人件費や店舗維持費を払うのですから、10%(10円)無くなると大損になります。   下①図

これを、お客の立場から見てみます。もしお客様心理が働いて10%(10円)安くなったんだから、10円余分に買える!だから100円分買った。儲かったとなります。これを検証します。②図をご覧ください。10円で買った中には5円の利益が含まれます。当然仕入れも5円増えますが、利益だけ見れば45円になりました。まだ5円足りません。

お客様が、100円の物が90円で買えたので喜んで後10円買い増せば小売店の利益は5円増え、更に10円(合計110円)買い増せば小売店は元の利益50円を確保できます。その後120円買ってくれれば増益(55円の利益)になってしまいます。この商品の例では、100円を基準に10%値引きをしても、お客様が元値20%増しの120円買ってくれれば完全な増益になり、販売イベントは成功となります。

小売店は販売イベントで通常客単価を20%引き上げられれば大成功という事になりました。何故こうなるのでしょう。

これは限界利益の考え方です。利益には売上総利益、営業利益、経常利益、純利益の他に限界利益と言うものが有ります。自社の限界利益が分かれば、イベントの成功に向けての計画も立てやすくなります。

限界利益=売上高-変動費(小売店では商品仕入れ額)  で計算できます。

限界利益の使い方は、次の機会にお話ししたいとおもいます。興味がある方は「限界利益」とネットで検索してみてください。

※:厳密には上記にある10円買い増ししても10%値引きが掛かるので利益の金額は少し変わりますが、話を分かり易くするため敢えて無視しました。                         

第9話 名言、迷言 最後のお話です

第9話 名言、迷言 最後のお話です

コンサルタント先生との改善活動のお話は今回(第9話)で終了します。今回は先生の発言で覚えているものを書いてみました。これは別の誰かの受け売りだったのかも知れませんが、当時の私にとっては大変新鮮に感じたものです。比喩的に表現しているものもあり、意味不明に思われるかもしれませんが、是非お読みください。

  • 苦労が普通の世界と感じる様にならないと競争には勝てない(第1話)
  • 知らない事が一番の恐怖。早く仕事の母数を捕まえろ(第2話)
  • 平行・直角・高さ制限。これで見た目には奇麗に映る(第3話)
  • 整頓の意味は深い(第5話)
  • 会議では黒板に書いた内容を見て意見を言いなさい(第6話)
  • 目的と手段を取り違えてはいませんか。目的は一つ、手段は無限にあります(第7話)
  • いつも頭の中は白紙状態にして観察し、あるべき姿をイメージせよ。改善されたからと言って、これがあるべき姿とは限らない(第3話)
  • 変化を恐れるな。変化しなければ進歩はない
  • やるべき事(べき論)は後にして、今やらなくちゃいけない事を先にしろ
  • 台風が来たらその目の中心で観察し、台風が去ったら自ら動いて風を起こせ(第4話)
  • 大きい会社よりスピードのある会社が勝つ
  • 51%可能性があったら迷わず進め。その後は走りながら考えろ
  • 他人のアイディアでも、共感出来たら自分のアイディアを乗せて行け(第6話)
  • 大手が5%ならこちらは20%で行かなければ大手には永久に追いつかない
  • 説明は一言で言い切る事(一言で言うと何なんだ!と良く叱られた)
  • 問題を指摘するなら、大きいほうから2つだけ言え
  • 記憶できる数字は3ケタだ。だから3ケタで話をしろ
  • 会議で結論が出なければ君が言い切ってしまえ。そんな会議なら言った者勝ちだ
  • 上司が諦めなければ部下はついてくる。だから上司は諦めたと言うな
  • ルールを作るとき、言い訳の為のルールを作ってないか
  • 音速より光速だ(言葉で説明を受けるより物を見たほうが絶対早い)
  • 今日やる事を朝3つだけ書き、帰るとき消し込む練習をしろ
  • 長期目標より今日の目標を確実に達成せよ
  • 前回報告したところから今回の報告を始めろ、話はみんな繋がっている
  • 専門を深堀しろ。深くなれば自然に幅が広がってくる
  • 切り口は何でもいい。行き着く先はみな同じだ

単純に分かる表現や比喩的で分かりにくい表現が混在しています。また、体系化された表現ではなく、その都度出てきたもので、誰かの受け売りであったかもしれませんが、その多くは30年経た今でも通用するものと私は思っています。

今回で、私が37歳まで勤務した会社での、一時期の改善活動の体験談を終わりにします。

最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。

次回の企画を考えています。次のシリーズは少し先になります。

第8話 コストって何ですか?

第8話 コストって何ですか?

コンサルタント先生はガラスの汚れや壁の傷などが嫌いな様でした。当時、工場では、製造部、管理部、開発部、工務部、品質管理部、外部委託業者等が夫々分担して清掃をしていた様に記憶しています。勿論、改善プロジェクトメンバーは清掃の大きな部分を担っていました。

コンサルタント先生は工場を見て回り少しでも汚れていると直ぐに清掃する様に指示をします。それと同じように、工場の壁にフォーク車の当て傷など見つければ補修の指示をしました。工場の通路を作った後は随分と当て傷は減り、効果があったと実感できましたが、それでもゼロにはなりません。我々改善メンバーも見て回りますが、先を越されてしまっていました。

気が付く度に呼び出しが掛かるので、一回にまとめて修理や清掃の指示を貰えるように話に行きました。先生は「ついでに、まとめて、一緒に、の考え方は良くない。その考えが進むと、問題が起きても会議までに整理して、まとめて発表しようと考えるようになるし、手当が遅れれば、更に問題を生む要因になる。問題があったらオープンにして直ぐ行動を起こすことが何より大切」と言いました。でも、私は「まとめてやった方がコスト安になって良いと思います」と主張したら、先生は「本当にコスト安になりますか?コストとは何ですか?掛かる費用だけの事ですか?皆さんのやる気や、機会損失、信用はコストではないのですか?」と逆質問をされてしまいました。

考えてみれば、私の知りえるコストは会計に計上された費用の事で、目に見えない信用や機会損失はお金に変わった時に初めて分かるものです。会社の改善活動をしている今、将来発生する可能性があるコストは、分かった時に削減する行動を起こすしかありませんし、その為の改善活動であったはずです。

このころ工場にIE(インダストリアル・エンジニアリング)部門が立ち上がり、細かい作業毎の時間管理が始まっていました。しかし、会社全体のコストを見て行く部署はありませんでした。先生の話を反芻するうちに、工場では夫々の部門が個々に最適コストを目指して改善を行っていますが、それらを全て繋げて見た総合コストが本当に最適コストと言い切れるのか、いささか疑問が生まれてきました。

その後になりますが、私は異動で電算課課長から経理課と、新設された原価管理課の課長を兼務することになります。この両部署を経験することによって、私はコストについて、より深く考えて行くようになりました。それは、私が35歳、今から30年ほど前のことでした。

お金になったものをコストとして捉えるのは難しい事ではありません。全てのお金は会計処理がされるので、必ず決算書類のどこかに再現されてきますから、計算書を丹念に読んで行けば見つけることが出来ます。でも、お金に換算できないコストがあるとすれば(コストと敢えて呼ぶなら)絶対に決算書類には出てきません。もしかすると、我々は目に見えない(決算書で捉えられない)膨大なコストの無駄遣いをしているかもしれませんが、誰も分からなければ無駄遣いと判断される事もないのです。

飯野 孝之

第7話 目的と手段

第7話 目的と手段

コンサルタント先生はメンバーが仕事に詰まるとこの言葉を使いました。「床で細かい事ばかり見ているから方向が分からなくなるのです。そういう時は少し高い壁に上って下を見ると道が見えてきます。それでも分からなければ天井に上って見てください。本当にやるべき事が見えますよ。」と。

そのころの私の上司は、銀行の元支店長で、取締役部長として執務を行っていました。その人の口癖は、「個人ごとに決められた目標は一つひとつを完全に達成することで会社目標が達成できる」であり、私も頂いた個人目標は全て達成することが正しいと愚直なまでに信じていました。その後この話はすっかりと忘れていました。

10年後に飛びますが私は転職し、次の会社で上場準備のために経営企画室の責任者として、社内インフラ整備や原価計算の仕組み作りを進めていました。経営計画策定も重要な仕事で、上場後を意識し、証券会社や監査法人の先生方の指導のままに、会社目標が部門、個人へと繋がって展開する、正に絵に描いた様なものを作っていました。又、管理職には経営計画を達成するための進捗会議を定期的に行っていました。

事業年度も後半になったころ、営業部の担当者が私のところに相談に来て、「今年度の個人目標を課長から3つ貰いました。しかし、現在2つは大幅に達成していますが、1つが全くダメです。今のままで、この一つに集中すると後の2つも危なくなりますが、3つ必ずやらなくてはいけませんか。成績にも影響しますか。」と、こんな質問でした。

私は、この時に何故か10年前のコンサルタント先生の話を思い出しました。彼に「この3つの目標を達成した先にどんな姿があるの?」と聞くと、彼は「売上高の達成だと思います」と返答、「では何故3つの目標なの」と質問、「課長が担当販売先のグループを3つにまとめ、夫々に目標を決めた」となりました。彼は、10年前の私と同じで、言われたことは全て100%しなければならないと信じている様子です。

私は彼に「与えられた3つの目標は、その上の売上達成の為の手段だから、それにはもっと良い方法があると課長に提案したらどうか。達成の為の手段はいくらでもあるのだから」と話しました。

後日談で、「課長は3つ全て達成しろと言っていましたが、新提案をしたら部長と相談して自分の実施計画を修正してくれた」との事でした。真の目的は1つ、手段は無限にあるという事を、コンサルタント先生は目標が見えなくなったら壁に上ると表現していたのだと想像するのです。                 飯野孝之

第6話 対立しない会議

第6話 対立しない会議

改善活動と言っても体を動かす事ばかりではありません。会社を良くする為に活動をしているので、問題が持ち上がれば集まって対策会議をします。

ある時、品質不良が連続して発生し、営業クレームになってしまいました。これを解決するために改善メンバーが会議を行いました。全員が管理職なので全ての専門家が集まった様な会議になりました。創業古い会社であり、30数年前の話なので上下関係は今より厳しいと考えてください。先ず、会議テーブルの配置をロの字かコの字形に配置し、議長が上座に腰掛けます。あとは部署ごとにまとまり座るのが当時の形でした。

さて、会議が始まり、営業が、クレーム発生の状況と顧客の言い分を話し、信用問題に発展すると顧客から怒られたと言います。品質管理部は不具合部位を指し品質手順書通りの生産をしたのか説明を求めます。工場は短納期の注文で量産が出来ず、冶具の交換やラインの停止が頻発し、作業段取りが煩雑になってしまって、結果見落としが発生したと反論します。部門間だけでなく上下間の軋轢が噴出した会議になりました。

会議が始まり暫くして、突然コンサルタント先生が社長と会議室に来られ、こちらを見ながら、いつもの通り進めるよう指示をしました。社長の前であったことも影響してか、お互い譲らずテンションが上がるばかりでした。ここでコンサルタント先生が待ったを掛けました。先生は「皆さん、会議の目的を忘れていませんか?」と質問しました。

皆、真剣に会議をしていると思っているので、何でこんな質問をされるのか、誰も答えないでいました。それを感じて、先生は「会議をする時、向かい合って行うと必ず対立が起こります。その上、この会議では報告が口頭でなされています。(実際は、不具合のあった現物を指しながら説明していたが)これでは理解がまちまちになり情報の共有も出来ません」と言い、直ぐに黒板(今ではホワイトボードですが)を用意させ、更に黒板に向かってテーブルを学校スタイルに変えさせました。

先生は、「言いたいことは黒板に書きなさい。皆さんの相手は人間ではなく黒板に書いてある内容です。言葉は、聞けば誤解を招くが、書いてあるものは誤解しようがありません」更に続けて、「100%ダメな意見などないのだから、少しでも共感できる意見が出たら、反対するのではなくその上に自分のアイディアを乗せもっと良くしなさい。この会議の真の目的は一つでしょう」と話し、社長と共に黙って会議の続きを見ていました。

私たちは座り直し、相手の顔を見ないで黒板に書かれている内容だけを見ながら議論を始めました。セクショナリズムが収まり、お互いずっと合理的に(理論的に)話が出来る様になりました。それ以降は会議では必ず黒板を用意し、書いた内容に更に良い意見を書き加えながら進めるスタイルとなりました。             以上